リーダー育成プログラムの落とし穴


リーダー育成プログラムの落とし穴


by 高杉尚孝(たかすぎひさたか)

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マッキンゼー社は、調査報告「なぜリーダー育成プログラムは失敗するのか」(Why leadership-development programs fail)において、企業のリーダー育成プログラムの多くが陥る4つの罠を指摘している。この調査は、2014年1月に同社の欧州事務所が中心となりまとめたものである。原文はこちら

 

その内容は、日系企業にとっても示唆的だ。

 

その概要(全翻訳ではない)をここに紹介する。末尾に、日系企業にとっての意味合いを私見として簡単に述べる。

 

同調査曰く、リーダー育成プログラムの罠は次の四つだ。

1) 求められるスキルとプログラム内容とのミスマッチ

2) 個人的能力開発と実務上の課題解決の乖離

3) 行動変容に不可欠なマインドセット変化の見過ごし

4) プログラム実施後における効果測定の軽視

 

 

罠1)

求められるスキルとプログラムとのミスマッチ

リーダーは真空状態にいるわけではない。そこには、リーダーシップを期待される何かしら特定の業務環境が存在する。その個別業務環境下においてリーダーは持てるスキルを発揮するのだ。

 

ある業務環境において卓越したリーダーシップを発揮できたとしても、異なった環境において、同じリーダーがそう出来るとは限らない。

 

同調査は、欧州大手サービス会社のCEOの事例を挙げる。このCEOは、成長市場において際立った成果を出したものの、その後の景気下降局面では、財政的な歯止めをかけることができなかった。

 

逆に、成長戦略で成功をもたらした、イノベーションや新規事業の育成を続けてしまった。ついに、このCEOは解雇の憂き目をみることとなった。

 

同調査は、多くの育成の試みが、フリーサイズ(one size fits all)、つまり、戦略、組織文化、トップの指示とは無関係に、ある特定のリーダースタイルや同等のスキルが有効であるというに発想に陥っていると指摘する。

 

しかも、その内容は、複雑に絡み合った無数のコンピテンシーであったり、ミッションやゴールであったりする。

 

したがって、同調査は「何の為のプログラムか」を問いかける重要性を指摘する。そして、成果に大きな違いをもたらす、例えば、「高品質の意思決定」や「コーチング」の様な2〜3の具体的なコンピテンシーの習得に焦点を当てる重要性を説く。

 

 

罠2)

実務上の課題解決と個人的能力開発との乖離

同調査は、参加者が日々の差し迫った実務から離れ、プログラムにおいてじっくりと自身のやり方を振り返る機会(reflection)を得る重要性を指摘する。これは、事務所を離れたオフサイトでの研修を実施するメリットだ。

 

同時に、実際に行動することによる学習が効果的であることから、プログラムを実務と結び付ける試みを同調査は奨励する。多くのプログラムがそうなっていないためだ。

 

ただし、この、プログラムと実務とのバランスのとれた融合が一筋縄では行かないと同調査は指摘する。プログラムの目的である「個々人の育成機会の提供」と「実務に直結した重要戦略課題の追求」とをうまく両立するのは容易ではない。

 

同調査は、次の某医療機器メーカーの失敗事例を挙げる。

 

ある参加者が、リーダー育成プログラムの一環として、高齢者の緊急対応時のための医療機器の開発プロジェクとを手がけた。数ヶ月掛け、その成果を取締役会において発表したところ、実は、フルタイムのチームが同様の課題に取り組んでいたことが分かったのだ。

 

この発表を受けた取締役会は、研修プログラムの副産物としての提案を受入れる訳には行かないとの見解を示した。この参加者は落胆し、その後離職してしまったという事例だ。

 

もちろん、うまくやれば両者を効果的に融合できると、成功事例を用いて同調査は指摘する。

 

また、エマージングマーケットにおいての実際のプロジェクトをリーダー育成のための育成アサインメントと位置づけるやり方も同調査は奨励する。そこでは、従来のやり方では限界があるため、自身のやり方を自省しながら思考や行動を変えて行く良い環境を提供するからだ。

 

 

罠3)

行動変容に不可欠なマインドセット変化の見過ごし

良いリーダーの育成には行動の変容が必要だ。それには、根底にあるマインドセットを変える必要がある。同調査曰によると、多くの企業は、これに気づいてはいるものの、それが、参加者にも講師にも精神的な不快感をもたらすことから積極的に取りかかろうとしない。

 

行動変容の前提となる水面下の思考、感情、前提、思い込みなどの特定は、プログラムの企画段階で避けられてしまうと同調査は指摘する。いくつかの成功事例をもとに同調査は、マインドセット変容の重要性を説いている。

 

欧州の大手重工企業が中央集権的企業文化から、分散型へとの移行を試みた際、多くの事業リーダーは権限を放棄することに抵抗をみせた。「英雄型」のリーダーイメージが強かったのだ。そのマインドセットが変わった後に、抵抗は薄れ分散型企業文化への変化が促進された事例を同調査は挙げている。

 

また、あるプロフェッショナルサービス企業のではその上級リーダーに、クライアント企業の経営陣とより戦略的な対話を求めた。そうしたところ、専門分野意外での対話に自信がないことが発覚した。この不安を取り上げることで、彼らは行動変容の試みにコミットできる様になった。

 

さらに、ある企業では、営業系のリーダー育成プログラムにおいて、「売上高やシェアを落とすのは恥だ」というマインドセットを変えることによって、より収益性の高い案件の発掘が可能になった。

 

 

罠4)

プログラム実施後における効果測定の軽視

最後に、同調査は多くの企業がリーダー育成プログラムの定量的な評価を怠っている事実を指摘する。プログラム評価の殆どは、参加者によるプログラム内容の主観的な留まる。

 

しかし、この評価方法は、プログラムが参加者の「満足度」を重視した、優しい(pleasing)内容に陥り易いという短所を同調査は指摘する。プログラム構成が、参加者にとって、難易度の高いチャレンジになり辛くなる傾向があるというのだ。

 

行動変容を評価するひとつの手法は「360度評価」(360 degree-feedback exercise)だと同調査は説く。プログラム実施前と、実施後6ヶ月から12ヶ月後に実施すると良いという。

 

他にも、参加者の昇進を含むキャリアパスをモニターしたり、担当プロジェクとの成果を指標にしたりすることも考慮に値するという。

 

まとめとして、同調査は下記の4つを奨励する

1)想定される特定の業務環境において求められる具体的なコンピテンシーの習得と育成プログラムを同期する、2)実務にリーダーシップ開発を組み込む、

3)行動の奥に潜むマインドセットを果敢に取り扱う、4)プログラムのインパクトをモニターし、その改善につなげる

 

 

 

私見:日系企業にとっての意味合い

 

1)

求められるスキルとプログラム内容とのミスマッチ

日系企業の場合にも、基本的なMBA的なカリキュラムを網羅する総花的な構成が多い様に思える。

 

確かに、リーダーとして経営全般に関する知識や分析力を有するのは必須だ。

 

ただし、その上で、リーダーとしての決断力、集中力、説得力、自律力、感情力など人格的成長のスキルの開発も求められると痛感する。

 

2)

個人的能力開発と実務上の課題解決の乖離

ほぼ全ての階層において、「グローバル人材」が不足している状況に鑑み、同調査の指摘する、エマージングマーケットにおける実際のプロジェクトをリーダー育成アサインメントと位置づけるやり方は日系企業にとっても急務だ。

 

しかし、「乗るか反るか」的に海外プロジェクトに無防備な人材を貼付けるのは危険だ。組織として、それなりの装備を提供することが重要だ。これは、本人の安心感にもつながるのみならず、業務遂行上のリスクヘッジにもなる。

 

3)

行動変容に不可欠なマインドセット変化の見過ごし

日系企業のリーダー育成においても、マインドセットの変容に焦点を当てたプログラムは稀ではないだろうか。

 

その重要性は認識されているものの、プログラムとして学問的な裏付けのある手法やトレーナーが圧倒的に少ないのが現実だ。

 

結果、カリスマ経営者、スポーツ選手、有名監督などの「武勇伝」から間接的に学ぼうとする手法に留まっているのではないだろうか。

 

4)

プログラム実施後における効果測定の軽視

日系企業において、特定のリーダー育成プログラムの修了者を長期にわたりフォローしているという話しは稀だ。

 

私の受ける印象では、部門や事業部がそれぞれの基準で長期的にリーダーを選抜しているように見受けられる。

 

確かに、偶発的な要因も多くある中、プログラム効果をのみを抽出・評価するのは簡単ではないだろう。ただ、同調査も指摘する様に、360度評価などは相対的に実施し易い手法だ。充分考慮に値するであろう。